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FlyingHigh1986

Author:FlyingHigh1986
"Again, you can't connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future. You have to trust in something"

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2012.01
17
Category : 未分類
                          「遅いよ、ペコ」

          「へへ…そう言ってくれるな。これでもすっ飛ばしてやって来たんよ」






僕の一番好きなマンガ。
それは松本大洋先生の「ピンポン」です。


湘南藤沢を舞台に、青年達の卓球にかける情熱を描いた青春スポ根マンガ。

星野裕(通称ペコ)は誰にも負けない卓球の才能の持ち主であり、
また何をやるにも垢抜けていて、小さな頃から皆の人気者だった。

しかし、自分の才能に自惚れたペコは、
高校の部活に顔も出さず、賭け卓球に明け暮れていた…。


月本誠(通称スマイル)は反対に、小さな頃から皆の嫌われ者。
笑わず、何も意見せず、ただじっとしているだけなのに…、クラスメイト達からは「ロボットみたいだ」といじめられていた。


ペコは持ち前の分け隔てない優しさと思いやりでそんなスマイルのことをいつも見守り、
やがてスマイルは、孤独という暗闇から自分を救い出し、
卓球の楽しさを教えてくれたペコのカリスマ性に絶大なる憧れを抱いていく。


しかし、そんなスマイルも実はペコに負けずとも劣らない卓球の才能の持ち主であり、
持ち前の生真面目さから直向きに練習を積み重ねた結果、
いつの間にか自分のヒーローであるはずのペコをも凌駕する卓球の実力を身につけてしまう。

やがてスマイルは、自分の「ヒーロー像」を守るために、ペコと卓球をする時は無意識にペコに気を遣い、
手加減をするようになっていた…。


そんなスマイルの類稀なる才能と惰性を見抜いた片瀬高校卓球部顧問の小泉丈(通称バタフライ・ジョー)は、
対戦相手のことを気遣い、手加減して打球するスマイルの精根を叩き直し、
完全無欠のアスリートとして育て上げるべく、ペコからの訣別を促す。

スマイルはバタフライ・ジョーと白熱の練習試合を繰り広げたことで覚醒し、
怠惰な自分のプレースタイルを捨て去り、「勝つため」の卓球を追求することを決意する。

目の前でスマイルの真価をまざまざと見せつけられ、愕然と立ち尽くすペコを尻目に、
スマイルは捨て台詞を残して、一人部体育館を後にする。

「ペコ、僕先に行くよ」


taiyo29.jpg

高校1年生の頃、休み時間にクラスメイトから「これ面白いから読んでみそ」と、
勧められて、ピンポンを初めて読んだんだけど、
初めてページをめくった時は、「うげぇ、何このヘタクソな絵…」と思いました。

歪に引かれたラインや、わざと適当に描いたかのような絵で、
「この漫画家、適当なんだな~」と、最初はあまり良い印象を持ちませんでした。

しかし、どんどん読み進めていくうちにいつの間にか、
この適当に描かれたかのようなラインに味を感じるようになり、
むしろとてつもなく絵が上手いということにいつしか気が付き、
どんどん松本大洋の絵に魅了されるようになりました。

そして、絵の上手さ以上に素晴らしい、僕が松本大洋、ピンポンを愛する理由は、
マンガを描く上での松本大洋の、ある種の「心意気」みたいなところにあります。

具体的にどんな心意気かというと…。



物語の中盤、スマイルがバタフライ・ジョーの邸宅を訪ねた際、ジョーはスマイルに対し、このように問いかける。

「君は幼馴染の選手生命を脅かすような球を打てるほど非情になれるか?」

これは、優しすぎるばかりに、
対戦相手の心情を妙に気遣って戦ってしまうスマイルの決定的な弱点を浮彫りにする問である。

かつて一流選手であったバタフライ・ジョーは、選手権大会の決勝戦で、膝を負傷した''幼馴染''と対戦したが、
ペコと試合するスマイルと同じように、幼馴染の身体のことを気遣って
生ぬるい球しか打ち返すことができずに負けた苦い経験があった…。

ジョーはスマイルにかつての不甲斐なかった自分の姿を重ね、
スマイルを自分が到達できなかったさらなる高みへと押し上げようとスマイルを試しているのである。



そして物語のクライマックスとなる神奈川県大会。

ペコはハードトレーニングが祟って負傷していた膝の調子が県大会中に悪化し、
その容態は決勝戦を棄権するか否かの選択を迫られるほどに傷んでいた。

しかし、それでも、選手生命の危機を顧みずにスマイルとの決勝戦に臨むペコ。


試合開始直前、スマイルは燃えるような眼差しでペコを睨みつけることで、かつての自分がペコに対して見せることのなかった闘志を剥き出しにする。

そしてペコはそれに応えるようにして微笑む。


試合が始まると、スマイルは、ペコの負傷した膝に選手生命が失われかねない負担がかかることを承知の上で、
フォアサイドからバックに深く揺さぶる球を容赦なく打ち返す。

この瞬間バタフライ・ジョーは、
かつての自分には出来なかったことを、
そして、かつてのスマイルには出来なかったことを見事にやり遂げた彼の進化に驚愕し、思わず瞳孔を見開く。


この「ジョーが瞳孔を見開く1コマ」は、スマイルが、
『幼馴染の選手生命を脅かすような球を打てるほど非情になった瞬間』であり、
スマイルの成長を示す最も重要な1コマであり、

この漫画の作者としては「是非とも読者に気付いてもらいたい1コマ」であるはずである。

しかし!

にもかかわらずこの松本大洋は、このスマイルの成長を表現した大切な一コマを、
独特のスピード感溢れるコマ割り中の、ごくごく平凡な1コマに紛れ込ませ、
一言のセリフも解説となるようなナレーションも添えず、ジョーが瞳孔を見開く顔を描くだけに終わっているのである。


この一連のシーンは、その重要性に比してあまりにさりげなく、あまりにも説明不足であり、
この場面でスマイルが「相手の選手生命を奪いかねない一打を打った」という事実にさえ気づくことができないだろう。

一般的な漫画家であれば、ここにセリフやナレーションを入れたり、スマイルとバタフライ・ジョーの回想シーンを挿し込むことで、これが一体どのような意味を持つシーンなのかを詳らかに説明してしまうところを、この松本大洋という漢は、

「絵だけで気付いてくれろよッ!!」

という姿勢で読者に挑んでいるのである。
もし気づかれなければ自分の言いたいことは伝わらないままであることを承知で。

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惰性で打つ卓球との訣別を決心したスマイルが体育館を後にする際の 「先に行くよ」 と言う台詞は、
決して 「先に帰るよ」 という意味で発せられた言葉ではない。


「僕これから高みを目指すよ。ペコもちゃんと後から来てね」という、
自分の揺るがないヒーロー像へのスマイルの期待が込められたセリフなのである。


そして県大会の決勝戦直前、
膝の負傷で試合を棄権するか否かを検討していたためにコートへ遅れて到着したペコに対し、

「遅いよ、ペコ」とスマイルはペコを詰る。

言うまでもないが、これは試合会場に遅れたペコを責めるために言った言葉ではない。

そして、ペコはこれに対して、

「へへ…そう言ってくれるな。これでもすっ飛ばしてやって来たんよ。」と言い訳をする。

そう、ペコはスマイルに置き去りにされたあの体育館から、過酷な特訓の日々を経て、
やっとスマイルに追いついてきたのである。


この緻密な会話のワンツーパスに、一体どれだけの読者が気づくだろうか。


この松本大洋先生の読者に媚びない、挑戦的な姿勢、心意気が滲み出ているところ。
それこそが、僕が一番面白い漫画としてピンポンを推す理由なのです。

Comment

非公開コメント

松本大洋いいよね。ZEROと花男を最近読み直したよ。竹光侍も面白かったです。

No title

竹光侍読んでないわー。

今度読む(多分一年後)w

作品毎に結構作風変わるよね彼。
竹光侍は片目が浮いてるとかなんとか。